物理演算エンジンとは

物理演算エンジンとは

公開日:2026-07-06

キャラクターの髪や服が動きに合わせて自然に揺れる、落ちたグラスが割れて破片が飛び散る——3DCGやゲームで目にするこうした「本物らしい動き」の多くは、物理演算エンジンによって生み出されています。手作業ですべてのフレームを付けるのは大変ですが、物理法則をコンピュータに計算させれば、自然な動きを効率よく再現できます。この記事では、物理演算エンジンの仕組みと役割、できる表現の種類、代表的なソフト、そしてBlenderやLive2Dでの具体的な設定手順から学び方までを、初心者にもわかりやすく解説します。

この記事の要約

物理演算エンジンとは 質量・摩擦・風などの物理法則をシミュレーションし、自然な動きを再現するソフトウェア。 できること 剛体・軟体の衝突、布や髪の揺れ、水・煙などの流体、破壊シミュレーションなど。
主なソフト Blender・Houdini・Maya、ゲームではUnity・Unreal、PhysX・Havok・Bulletなど。 学び方 まずはBlenderやLive2Dで実践。体系的に学ぶなら専門スクールが近道。

物理演算エンジンとは?仕組みをやさしく解説

物理演算エンジン(Physics engine)とは、質量・速度・摩擦・風といった古典力学的な法則をコンピュータ上でシミュレーションするソフトウェアのことです。「物理演算」「物理エンジン」と略されることもあり、多くの場合、3DCGソフトやゲームエンジンに組み込まれるミドルウェア(複数のソフトから共通で使われる部品的なプログラム)として提供されています。

私たちが現実の世界で見ている動き——ボールが転がる、旗が風になびく、水が流れる——は、すべて物理法則に従っています。物理演算エンジンは、こうした法則を数式として計算し、CG空間の中で再現します。制作者が動きを一つひとつ手で指定しなくても、初期条件を設定するだけで、あとはエンジンが「その後どう動くか」を自動で導き出してくれるのが最大の特徴です。

物理演算の基本は「衝突判定」と「ダイナミクス」

物理演算の土台となるのは、大きく分けて2つの処理です。1つ目は衝突判定(コリジョン)で、物体同士がぶつかったかどうかを検出し、跳ね返り(弾性)や摩擦の度合いを計算します。2つ目はダイナミクス(動的シミュレーション)で、静止した一点にかかる力だけでなく、現実と同じように「動き続ける物体全体の運動」を計算するものです。この2つに、流体・剛体・軟体などのシミュレーションが加わって、多彩な表現が実現されています。

手付けアニメーションとの違いとメリット

従来のアニメーションは、制作者がキーフレームを打って動きを一つひとつ指定する「手付け」が基本でした。意図を細かくコントロールできる一方、揺れものや大量のオブジェクトが絡む複雑な動きを手作業で自然に見せるのは、多くの時間と技術を要します。

物理演算を使えば複雑な動きを計算に任せられるため、制作を効率化しながらリアリティを高めやすくなります。ただし、思いどおりの結果にはパラメータ調整や再計算が必要で、演出意図に合わせて手付けと組み合わせる場面も少なくありません。物理演算は「手付けを置き換えるもの」ではなく、表現の幅を広げる相棒と捉えるのが実務的です。

物理演算エンジンでできる表現の種類

物理演算エンジンでは、身近な物理現象の多くをシミュレーションできます。ここでは3DCG・映像制作でよく使われる代表的な表現を整理します。

剛体シミュレーションと軟体シミュレーション

衝突を扱うシミュレーションは、対象の「硬さ」で大きく2種類に分かれます。剛体演算(リジッドボディ)は変形しない硬い物体同士の衝突を扱い、ボウリングのボールがピンを倒す様子などが典型例です。軟体演算(ソフトボディ)は弾力のある物体の変形を扱い、お皿に落としたプリンが揺れる、ゴムボールが弾んで少しつぶれる、といった「やわらかな揺れ」を表現できます。

クロス(布)とヘア/ファー(髪・毛)

キャラクター表現で特に需要が高いのがクロスシミュレーションとヘア/ファーです。クロスは、風になびく旗やマント、シーツやクッションなど布のたわみや揺れを再現します。ヘア(髪)/ファー(毛)は、本体の動きに合わせて毛束が揺れたり風になびいたりする様子を表現します。髪や服が動きに追従して自然に揺れると、映像全体の説得力が一気に高まります。

流体・破壊・エフェクト

さらに大きなスケールの現象もシミュレーションできます。流体シミュレーションは海・川・水や空気の流れを再現し、その応用で雲・煙・蒸気、火災・爆発、溶岩・泥といった粘性のある流体まで作り出せます。破壊シミュレーションは、床に落ちたグラスや花瓶が割れて破片が飛び散る様子などに使われます。加えて、あらかじめ用意されたエフェクト素材(アセット)を読み込み、ほとんど調整なしで爆発・火・煙・雨などの演出を素早く再生できる仕組みも整っています。

どこで使われている?映像・ゲーム・VTuberでの役割

物理演算エンジンの応用先は、大きく「科学技術計算」と「エンターテインメント」に分かれます。ここではクリエイティブ制作に関わる代表的な現場を見ていきましょう。

映像・VFXの現場では、正確さとリアリティが重視されます。時間をかけて高精度に計算し、実写と見分けがつかないほどの水しぶきや爆発、群衆や破壊のシーンを作り込みます。映画やCM、アニメーションの迫力ある場面の多くは、物理演算による緻密なシミュレーションに支えられています。

ゲームの現場では事情が少し異なります。1秒間に何十回も画面を更新する必要があるため、正確さよりも速度・リアルタイム性が優先される場合が多く、精度を割り切ってでも高速に処理する手法が取られます。プレイヤーの操作に応じて箱が崩れたりマントが揺れたりする「その場で計算される動き」は、リアルタイム物理演算の代表例です。

近年はVTuberや2Dキャラクター配信でも物理演算が身近になりました。Live2Dのようなツールでは、髪や服、アクセサリーといった「揺れもの」に物理演算を設定することで、2Dのイラストでも生き生きとした自然な動きを付けられます。3DCGだけでなく2D表現の領域にも、物理演算の考え方は広がっています。

代表的な物理演算エンジン・ソフト一覧【比較表】

ひとくちに物理演算エンジンといっても、3DCG制作ソフトに組み込まれたものから、ゲーム開発で使われる専用のライブラリまで幅があります。目的別に代表的なものを見ていきましょう。

分類 名称 特徴・主な用途
3DCG統合ソフト Blender 無償で使え、クロス・剛体・流体など主要な物理演算を搭載。個人制作の入り口に最適
3DCG統合ソフト Houdini ノードベースのプロシージャル設計に定評。流体・破壊・エフェクトに強く映像・VFX向き
3DCG統合ソフト Maya 映像・アニメ制作の定番。3D流体やパーティクルなど豊富なエフェクト機能を搭載
ゲームエンジン Unity 標準の3D物理にNVIDIA製PhysXを統合。オプションでHavokも利用可能
ゲームエンジン Unreal Engine UE5では「Chaos(カオス)」が標準の物理・破壊システム
ミドルウェア/ライブラリ PhysX NVIDIAが開発。オープンソース化され、GPUを活かした高速演算が特徴
ミドルウェア/ライブラリ Havok AAAタイトルでの採用実績が豊富な業界標準級の物理エンジン
ミドルウェア/ライブラリ Bullet/Box2D 無償・オープンソース。個人開発や学習用途にも広く使われる

※各ソフト・エンジンの仕様は公式ドキュメント(NVIDIA PhysX/Unreal Engine/Unity 等)に基づく。2026年7月時点。

3DCG統合ソフト(Blender・Houdini・Maya)

3DCGアニメーションを作るなら、まず物理演算機能を内蔵した統合ソフトが選択肢になります。かつてはプロ向けの高価なソフトが中心でしたが、現在では無償のBlenderをはじめ、個人でも手が届くソフトがそろっています。エフェクトやパーティクル表現では、管理しやすいノードとプロシージャル設計に定評のあるHoudiniがよく使われます。用語の詳細は3DCGの基礎解説もあわせて参考にしてください。

ゲームエンジン・ミドルウェア(Unity・Unreal・PhysXほか)

リアルタイムに動くゲームやインタラクティブ作品では、ゲームエンジンに組み込まれた物理エンジンを使います。Unityは標準の3D物理にNVIDIAのPhysXを統合しており、Unreal EngineではUE5から「Chaos」が標準の物理・破壊システムとして採用されています。PhysXはオープンソースとして公開され、GPUを活用した高速な演算が可能です。より軽量な用途にはBulletやBox2Dといったオープンソースのライブラリも広く使われています。

【初心者向け】Blenderで物理演算を設定する手順(クロス)

「まずは自分で動かしてみたい」という方に向けて、無償ソフトBlenderでのクロスシミュレーション(布の揺れ)の基本的な流れを紹介します。以下は一般的な手順の一例で、バージョンによって画面や項目名は多少異なります。

1

布にするメッシュを用意する

平面オブジェクトを配置し、細分化して頂点を増やす。頂点が多いほどなめらかで自然な布になるが、計算は重くなる。

2

クロスを設定する

プロパティの「物理演算」から「クロス」を有効化。硬さや重さは項目が多いため、用意されたプリセット(Cotton/Silk/Rubberなど)から近いものを選ぶと調整がスムーズ。

3

ぶつかる相手にコリジョンを設定する

布が触れる床やキャラクターには「コリジョン」を設定。布同士の貫通を防ぎたい場合はクロス側の「セルフコリジョン」を有効化する。

4

品質(ステップ数)を調整する

「品質のステップ数」は1フレーム内の計算回数。増やすほど精度が上がるが計算時間も伸びる。まず標準値で試し、破綻する部分だけ上げるのが効率的。

5

再生して確認・微調整する

アニメーションを再生し結果を確認。揺れ方が意図と違えば重さ・硬さ・空気抵抗などを少しずつ調整する。

はじめの一歩のコツ

最初から複雑なモデルに挑戦せず、一枚の布を垂らす・風になびかせるといったシンプルな課題から始めると、パラメータを変えたときの変化のクセがつかめます。

【VTuber・2D向け】Live2Dの物理演算で揺れものを設定する方法

2Dキャラクターを動かすLive2Dにも物理演算が備わっており、髪や服などの「揺れもの」を自然にゆらすことができます。基本的な流れは次のとおりです。

1

物理演算の画面を開く

メニューの「モデリング」→「物理演算・シーンブレンド」を選ぶと、専用の設定ウィンドウが開く。

2

グループ(揺らす部位)を追加する

前髪・横髪・後ろ髪・服など、揺らしたい部位ごとにグループを作成し、わかりやすい名前を付ける。

3

入力・物理モデルのプリセットを選ぶ

入力プリセット(例:「頭 入力」)と物理モデルのプリセット(例:「髪(長い)」)を割り当て、振り子による揺れの土台を作る。

4

揺れ方を調整する

「収束の早さ」を大きくすると素早く揺れが収まり、小さくするとゆったり収束する。デフォーマにスキニングを使うと紐のようになめらかな揺れになる。

5

physics3.jsonを書き出す

データ出力時に「物理演算設定ファイル(physics3.json)を書き出す」にチェック。忘れると書き出したモデルに揺れが反映されない。

物理演算がうまく反映されない場合、この書き出し設定やパラメータ入力のプリセット位置が原因になっていることが多いので、順に見直してみてください。

【学習者向け】物理エンジンを自作してプログラミング・力学を学ぶ

「JavaScriptやC言語などのプログラミングで、数値計算や力学の基礎を実務・学習に活かしたい」という方には、簡単な物理エンジンを自作してみる学び方があります。既存のエンジンを使うだけでなく、内部でどんな計算が行われているかを理解できるのが大きな利点です。

物理エンジンの根っこにあるのは、物体の位置・速度・加速度を、ごく短い時間ごとに更新していく数値積分の考え方です。もっとも基本的なオイラー法では、「加速度から速度を更新し、速度から位置を更新する」という処理を毎フレーム繰り返すだけで、重力で落下する物体を表現できます。ここに壁での跳ね返り(反発係数)や摩擦、複数物体の衝突判定を少しずつ加えていくと、シミュレーションらしくなっていきます。

最初からすべての物理法則を実装しようとせず、「壁で跳ね返るボール」のような小さな題材から始めるのが現実的です。慣れてきたら、オープンソースのBox2DやBulletのソースコードを読むことで、実務レベルのエンジンの設計を学べます。数式が動きとして目に見えるため、力学や数値計算を学ぶ教材としても物理演算は相性が良く、ゲーム開発や映像制作の現場で物理挙動を細かく制御したいエンジニア・アニメーターにも役立ちます。

物理演算を仕事にするには|独学の壁とスクールでの学び方

物理演算は3DCG・映像・ゲーム・2D表現まで幅広く関わる基礎技術です。独学でも入門はできますが、「シミュレーションが破綻する原因が分からない」「作品全体のクオリティに結びつかない」といった壁にぶつかりやすいのも事実です。物理演算は、モデリング・アニメーション・ライティング・レンダリングといった前後の工程と組み合わせて初めて作品として成立するため、体系的に学ぶメリットが大きい分野だと考えられます。

社会人向けの専門スクールであるデジタルハリウッドは、これまでに10万人以上の修了生を輩出してきたクリエイター教育の実績があります。3DCGやCG/VFXを基礎から学びたい方には、本科CG/VFX専攻(1年でプロを目指す集中コース)や、未経験から始めやすい3DCGデザイナー専攻が用意されています。リアルタイム表現やゲーム領域に関心がある方は、Unityなどを扱うXR専攻も関連します。どんな仕事につながるのかはクリエイターのお仕事図鑑も参考になります。個別の状況に合った学び方は人によって異なるため、まずは無料のスクール説明会で相談してみることをおすすめします。

関連コース:本科CG/VFX専攻(プロ養成)/3DCGデザイナー専攻(未経験対応)
授業形式:通学+オンライン(校舎により異なる)
給付金:一部講座は経済産業省リスキリング支援事業・専門実践教育訓練給付金の対象講座(条件は年度・個人により異なる)
まずは:無料のスクール説明会・資料請求で最新情報を確認

まとめ

物理演算エンジンは、質量や摩擦などの物理法則をシミュレーションし、髪や布の揺れ・衝突・流体・破壊といった「本物らしい動き」を効率よく再現するための基礎技術です。3DCGや映像、ゲーム、さらにはLive2Dによる2D表現まで、活躍の場は広がり続けています。Blenderで一枚の布を揺らす、Live2Dで髪をゆらす、簡単な物理エンジンを自作してみる——どこから始めても、物理演算は「動きのリアリティ」を扱う力を育ててくれます。さらに一歩進んで作品づくりやキャリアにつなげたい方は、体系的に学べるスクール説明会で、あなたに合った学び方を相談してみてください。

よくある質問

Q. 物理演算エンジンとは何ですか?

A. 質量・速度・摩擦・風などの古典力学的な法則をコンピュータ上でシミュレーションし、衝突・揺れ・流体といった動きを再現するソフトウェアです。多くは3DCGソフトやゲームエンジンに組み込まれるミドルウェアとして提供されています。

Q. 物理演算エンジンで具体的に何ができますか?

A. 剛体・軟体の衝突、布(クロス)や髪(ヘア/ファー)の揺れ、水や煙などの流体、物が割れる破壊シミュレーションなどを表現できます。キャラクターの髪や服を自然に揺らす用途でよく使われます。

Q. 初心者はどのソフトから始めるとよいですか?

A. まずは無償で主要な物理演算を搭載しているBlenderが始めやすい選択肢です。2Dキャラクターの揺れものを扱いたい場合はLive2D、ゲーム開発ではUnityやUnreal Engineが候補になります。

Q. 物理演算にプログラミングの知識は必要ですか?

A. BlenderやLive2Dで設定するだけなら必ずしも必須ではありません。一方で、物理エンジンの仕組みを深く理解したり自作したりする場合は、JavaScriptやC言語などでの数値計算・力学の知識が役立ちます。

Written By

デジタルハリウッド スクール編集部

クリエイター教育を手がけるデジタルハリウッドの編集チームです。3DCG・CG/VFX・映像・Webを学ぶ受講生の学びを日々サポートしてきた経験をもとに、制作現場のリアルや最新の学習トピックを発信しています。

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著者:デジタルハリウッド スクール 編集部