公開日:2024-07-03
エフェクトを専門とするCGスタジオ、株式会社StealthWorks《ステルスワークス》へ企業訪問し、デジタルハリウッドの卒業生の宮下 知己さん、同じく卒業生でStealthWorks代表の米岡 馨さん、StealthWorks取締役兼プロデューサーの河野真也さん3名へのインタビューを行いました!
左から河野さん、宮下さん、米岡さん、
StealthWorks企業サイト:https://www.stealthworks.jp/
宮下 知己/Miyashita tomoki
1996年生まれの埼玉県出身。2019年に法政大学文学部卒業。大学在学中にWスクールにてデジタルハリウッド東京本校 本科CG/VFX専攻に通学、卒業。
在学中にStealthWorksのインターンで映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』の制作に関わる。大学卒業後、同社に所属後、現在はフリーランスとして同社の仕事に関わっている。
米岡 馨/Yoneoka kei
エフェクトアーティスト
株式会社ステルスワークス代表
1976年生まれの山口県出身。2001年早稲田大学第二文学部卒。
同年デジタルハリウッド卒業。
アニマ(旧笹原組)からキャリアをスタートし、フリーでアニマロイド、デジタル・メディア・ラボ、株式会社オムニバス・ジャパン、OXYBOT株式会社などの著明プロダクションを渡り歩いた後2011年ベルリンのPIXOMONDO、2012年にバンクーバーのScanline VFXでハリウッド作品に関わる。
その後帰国し2016年StealthWorksを設立し今に至る。
2019年StealthWorks台湾を設立し事業拡大中。
2017年Wスクールでデジタルハリウッドに通った宮下さんにインタビュー
映像に興味を持ったきっかけを教えてください
宮下さん:大学自体は文学部心理学科でCGとは関係ない学部でしたが、サークルで脚本を書いてドラマ撮っていました。映像を作っていく中でCGを入れていきたいなと思ったのですが、自分でCGを制作していくのが大変だな、と学校を探し、大学3年生の時にWスクールでデジタルハリウッドに通いました。
ステルスワークスとの出会いについて教えてください
宮下さん:米岡さんにTwitter(現 X)で連絡をしたら来てもいいよと声をかけていただいたのがきっかけです。最初に連絡をしたのは中間課題が終わったときでした(入学後約6ヶ月目)。はじめまして!と課題の映像を送り、その後、卒業制作が終わったときに改めて連絡しました。その時に来てもいいよと声をかけていただきました。そこから学校のない日にここでアルバイトを始め、大学を卒業してからもここでお世話になっています。
スタッフ:SNSからだったんですね!採用フローがあったわけではないのですか?
米岡さん:そうですね、大手のような採用フローはなく、やる気ありそうだな、と感じて採用しました。
エフェクトを選んだのはなぜ?
宮下さん:実写の動きに合わせて何かをやる、となるとエフェクトだったんです。そのため、入学する前からHoudiniをやりたいなと思っていました。
エフェクトをやっている人は少ないので、デジタルハリウッドのときもほぼいなかったため、他の人がどういう感じなんだろうというのを知らなかったのですが、ステルスワークスに来て、同世代のエフェクトアーティストに出会ってエフェクトに関する話ができて嬉しかったです。
入社してからはどんなお仕事をされたんですか?
宮下さん:入ってすぐ、某有名な人気シリーズのゲームエフェクトの仕事に携わらせてもらいました。雲のエフェクトでしたね。
米岡さん:方針として、少数精鋭で仕事をしているため、最初からパフォーマンスを出してもらうために、これが答えだよというアセット※を渡し、結果を出してもらい、そこから画作りに必要なのはこうだよ、というのを教えていくという流れで仕事をしてもらっています。
宮下くんは、素養があったので、アセットの運用はすぐにできていましたね。アセット運用のいいところは運用がうまくできれば、どの人がやっても同じクオリティができることです。
※アセット:3DCGのモデルデータ、アニメーションデータ、音声データなど、制作に必要な各種素材データのことを指します
宮下さん:映画『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー / 最後の錬成』に150カットくらい参加しています。この作品からHoudiniでやることになり、アセットではなくゼロベースで組んでいったので印象に残っています。
米岡さん:『るろうに剣心 最終章 the Final』では屋根瓦が銃撃で壊れるような破壊系シーンを3dsMAXで制作していました。『鋼の錬金術師第2部、3部』ではビームやバリア等巨大な光学系のエフェクトが多かったので、ゼロベースでHoudiniでアセットの作成をしました。
弊社は3dsMAXからスタートした会社ではありますが、学生さんはエフェクト勉強するとなるとHoudiniから始める方が増えています。そのため、スーパーバイザーを中心にHoudiniチームを作りました。
今後の目標
宮下さん:エフェクト寄りのジェネラリストを目指したいです。エフェクトだけをやっていると、何かのモデルをいただいて壊す、という前段階に他のCGが必要なので、その前段階も自分でできたら一から作れるな、作りたいなという目標があります。
また、監督志向があり、海外に行けたら行きたい気持ちもあります。エフェクトのパラメーターに関わりつつ、全部やりたいという思いもあります。絶対に海外に行かないと気が済まないというわけではありませんが、行けるなら行きたいです。
米岡さん:海外で得られた利益は非常に大きく、それを仕事に直結させてきました。例えば、「元〇〇の宮下さんが言うから正しいし、何かやってくれるだろう」といった信頼感が生まれます。結果を出すべきところで出し、海外経験を活かして同じレベルの人が集まってくるのが理想です。仕事は誰とやるかが重要なので、それ相応の人が集まってくるのが大切です。
河野さん:「最終学歴元ステルス」が通用するようになれば理想ですね。
宮下さん:「ステルスのファン」と言う方と仕事をしましたよ!
米岡さん:ありがたいことにステルス指名の案件が多く、フロントマンとして許諾申請を大変ですが、積極的に食い込んでいきます。SNSで「この案件をやりました」と発信することで、スタッフがフォロワーに誇れるようにしています。
ステルスワークスについて
米岡さんのご経歴とステルスワークスができるまで
米岡さん:デジタルハリウッドを卒業後、まず(有)笹原組で働き、その後株式会社アニマへ移籍しました。アニマロイドanimaroid Inc.の立ち上げ時にはメンバーとして参画し、その後株式会社デジタルメディアラボなどを経て、株式会社オムニバス・ジャパンやOXYBOT株式会社でも経験を積みました。ドイツ、ベルリンのPixomondo(ピクソモンド)で2年間働いた後、カナダ、バンクーバーのScanline VFX(スキャンライン)に移籍しました。もともとジェネラリストとして働いていましたが、海外での活動にはスペシャリストが求められました。そして海外では合計4年間過ごし、その後日本に戻り、最初はフリーランスとして活動し、会社を立ち上げようと動き始めました。業界の方からアドバイスをもらってエフェクトに絞ることにしました。
河野さん:設立当時はスクウェア・エニックスに所属していました。プロジェクトが終わるまでは難しいとは伝えていたものの、夜中のファミレスで会社名を考えるなどして準備は一緒に進めましたね。ステルスワークスに入ったのは終了後です。きちんとプロジェクトをやり切ってから移籍したので、今でもスクウェア・エニックスから仕事をもらうなど良好な関係を築いています。
会社としての目標を教えてください
米岡さん:エフェクト専門の会社はあまり見かけません。知り合いにエフェクトが上手い人はたくさんいて同じ座組でいつも仕事を回しているので、皆で会社を作ればいいのにと思うこともあります。
しかし、上手い人が集まるだけでは組織は成り立ちません。誰かがフロントマンとして機能し、他の人がそれを補う形でバランスが取れていないといけません。エフェクトは大変なジャンルなので、自分がフロントマンとして機能し、契約周りやプロダクション運営を担当する河野さんとの役割分担がうまくいっているからこそ、会社として11期目、10年間続けてこられたのだと思います。
河野さん:今後、受け負える領域を広げたいと考えています。具体的には、コンポジットまで手がけるのか、エフェクトの前段階を担当するのかを検討中です。これからもエフェクトを全く知らない人ではなく、親和性のある人が入ってくるのではないでしょうか。
さらに、IP(知的財産)にも力を入れていきたいです。社内で企画して作るだけでなく、IP創出に関わるビジネスモデルに取り組みたいと考えています。
そういう意味では、作家性のある宮下君に期待している部分はありますね。自分の中から生み出したいという力が強い人がいないと、IPを作ることに事業をやっても観客に見透かされてしまうと思っています。情熱がある人を待っています。
米岡さん:エフェクトには話のスケールを大きく見せることができるという強みがあります。ドラマでも大きなエフェクトを描くことで、スケールが広がり、話を広げやすい分野です。自分たちで作品を手掛けると、「ステルスが手掛けるとこうなるんだな」という風に、ブランドとしての特徴が出ると思います。
CGをこれから学ぼうかなと思っている人に背中を押すメッセージをお願いします
宮下さん:やりたいことを簡単にやってみるのがいいんじゃないかなと思います。モデル作ってみたり、最初から映画に出てくるものを始めちゃうと届かなくて辞めちゃうと思うので、机の上に箱を合成するといったところからでもちょっとずつできると嬉しいものなので。
米岡さん:アニメの案件に取り組む際、今までアニメや漫画を見たり読んだりしてこなかったため、アニメのお約束事などが分からず、今になって勉強し直すことに直面しています。若いころから様々なジャンルのアニメ、映画、ゲームなど、エンタメに関わることに広く浅くアンテナを張っておけば、将来的に仕事が発生したときに「あの時に見たあれかな?」という点と点が線になる瞬間があります。ただ何かを見て楽しい、ゲームして面白かったというだけでなく、将来的にどのような仕事に繋がるのかを予測しながら行うことで、遊びそのものが勉強になります。そういったマインドで過ごしてもらうと良いと思います。
河野さん:面接に来てくださった皆さんに言うのですが、CGという分野に目をつけた時点で、大いに見どころがあると思うんですね。CGは自己実現の場であり、映画、アニメ、ゲームなど、多くの産業で広く活用されています。物を作る喜びと安定を両立できる分野だと思っています。
米岡さん:AIの流行を考えつつも、CGを選ぶべきか迷っている人が増えています。現在、SNSなどで絵描きさんを見ていると、誰が描いたかが非常に重要になってきています。アーティストという視点では、ブランディングがますます重要です。自分の色を出せる人が増えていて、ブレンダーで作品を発表する人たちを見ると、その人独自のスタイルが確立されており、他の人が真似できないものになっています。
「AIで作りました」というだけでは、そこまで価値がないと感じています。「この人が作りました!」というブランディングがあれば、AIに怯える必要はないと思います。
AIはあくまでツールであり、私たちはその力を使ってより良いものを作るだけです。これまでのCGでも、スキャン技術が進んだからといってモデラーがいなくなったわけではありません。逆に、そこからさらに良いものを作り続けています。
また、モーションキャプチャーが普及してからも、アニメーターの重要性は増しています。技術が進歩する中で、私たちはそれを活用し、創造を続けてきています。