東京から世界へ。ハリウッド基準で挑むSEN PICTURESのものづくり

公開日:2026-07-01

2026年1月、デジタルハリウッドの講師と卒業生が、新たにCG・VFXスタジオ「SEN PICTURES」を設立しました。ハリウッド作品の制作に長年携わってきた井崎崇光氏と、数々の企業で経営改革や事業成長支援を手がけ、60代でCGの世界へ飛び込んだ楢葉徹雄氏。異なるキャリアを歩んできた二人は、なぜ今、日本から世界を目指すスタジオを立ち上げたのでしょうか。その背景にある想いや、目指す映像制作について伺いました。

代表取締役 CEO 井崎 崇光

カナダのVFX制作会社で15年以上にわたり制作およびマネジメントに従事。Netflix実写版『ONE PIECE』や『Avatar: The Last Airbender』など多数のハリウッド作品でCGスーパーバイザーを務める。Teamove Entertainment Inc.と連携し、バンクーバーで活躍する現役アーティストによるVFX/CGオンラインチュートリアル・チューターサービス「Visutor」の講師も務めるほか、2021年10月から2026年3月までデジタルハリウッド本科CG/VFX専攻にて背景モデリングゼミ講師を担当。

取締役 CFO & CHRO 楢葉 徹雄

ベネッセ、マッキンゼー、ゴールドマン・サックス、三洋電機、エムスリー、伊藤忠、ヤナセなど、国内外の企業において経営改革や事業成長支援に従事。組織づくりや経営基盤の構築を専門とし、SEN PICTURESでは経営・人事・事業戦略を担当。クリエイターが持続的に活躍できる組織づくりと、日本の映像制作を世界につなぐビジネス基盤の整備を推進している。2024年3月、デジタルハリウッド本科CG/VFX専攻修了。

ー楢葉さんはデジタルハリウッド卒業後まずはカナダで留学されたと伺いました。その時のお話をお聞かせください。

楢葉:カナダの「Lost Boys | School of Visual Effects」(今はLost Boys | CAMPUS VFXに名前変更)に入学し、そこでエフェクトを1年間勉強しつつ、起業の準備をする1年間でした。企業で経験を積むという選択肢も考えていましたが、当時はハリウッド業界のストライキなどもあり若手にとっても就業機会が限られていました。そのため、就職を目指すだけでなく、自身でビジネスを始める準備も併せて行っていました。

ーカナダにてスペシャリスト教育の学校でエフェクトの学習を選ばれた理由はありますか?

楢葉: 大きく言うと2つあります。

1つはやはり「できるだけ難しい分野をやろう」ということです。多くの若者がやっているものをやってもなかなか差別化できないですから。

もう1つは、起業を視野に入れていたので、なるべく全体を見渡せる工程を選びました。素材をまとめて作品として納品する直前の工程であるコンポジット(合成)も有力な候補でしたが、合成は素材がないと何もできません。それに対してエフェクトの場合は、自分で作ることができます。私は若い頃の家具制作経験等から自分でコントロールできるものを作る方が性に合っていました。そのため、同じように後工程であり、自身で作り出すことができるエフェクトを選んで学習しました。

デジタルハリウッドでCG制作を幅広く学んだからこそ、エフェクトという分野を知り、自分に向いていると判断できました。

ーその後、楢葉さんは井崎さんと一緒に起業する形になったわけですがお二人の出会いは?

楢葉: デジタルハリウッドの海外就職セミナーでTEAMOVEの牧野さんの授業があり、TEAMOVEに海外渡航を相談したことがきっかけです。数多くの現場を経験してきた井崎さんにお話を伺いたい、と場を設けてもらいました。

井崎:最初から「日本がどうしてハリウッドの仕事ができないのか」「それを打ち破るにはどうしたらいいのか」といった話で盛り上がりました。

ー「SEN PICTURES」というスタジオ名に込められた思いは?

井崎:まず日本らしい『禅:Zen』の響きに近く、最先端の『線(SEN=Line)』であるということ、そして『千(1000)』人強のスタジオを目指したいという思いを込めています。

ー「SEN PICTURES」におけるお二人の役割を伺えますか?

楢葉: 「ものづくり」については、井崎に全振りさせてもらっています。それ以外の企業経営、会社の仕組みづくりは私が担当しています。やはり、経営機能については、制作力に比べると十分にリソースを割けていないスタジオが多いと感じています。経営には「人・物・金」が非常に重要な資源ですが、「物(=作品)を作る」ところはものすごく注力していても「人」や「お金」のマネジメントが後回しになりがちです。小規模なうちはそれでも回りますが、事業を拡大しようとすると、その部分が大きな課題として表れてきます。

「お金とか人が足りないから大きな仕事が取れない」という形にならないよう、経営基盤を整えて、「大きくなりたい」という夢を叶えていきたいと思っています。

ー企業として「ここのポジションを強く打ち出したスタジオにする」というようなコンセプトはありますか?

井崎:何よりもまず「ハリウッドの仕事をする」ということです。MPC(Moving Picture Company)などの企業でのCGスーパーバイザーをしていた際にはインドなど海外に発注する側の仕事をした経験から、安くてそこそこのものを作るのではなく、ハリウッドと同じクオリティの仕事をし、発注先となるということを意識しています。

日本だと「モデリングに強い会社」とか「アニメーションに強い会社」というのがありますが、ハリウッドは基本トータルでできることが前提となり、その上でランクに分かれています。そのトップレベルがLMやWētā(ウェタ)といった会社で、我々はそこに続くレベル2を目指したいと考えています。

楢葉:加えて「日本発の会社」ということも大切にしたいです。昔から「日本人の仕事の丁寧さ、速さ」は業界の人はみんな知っている優れた点です。そこにアニメなどのポップカルチャーのおかげで日本の文化に親しむ方が海外にも増えてきました。今はさらに「円安」という海外の仕事をしたい日本発の会社からしてみると、大きな追い風が吹いています。その「競争力の源泉」を大切に、今までインドをはじめとした諸外国に発注していた仕事を「日本」の「SEN PICTURES」に発注しよう!と思ってもらえるポジションを築きたいです。

ーそのビジョンを実現する上で、経営面ではどのようなことを意識されていますか?

楢葉:ハリウッドで通用するような会社というのは、そもそもグローバルスタンダードで運営されている必要があります。私は異業種のコンサルティングや自身の経営経験から、日本の企業の強さと同時に、弱さも知っています。海外で仕事をするには「優秀なエンジニアやアーティストを集めて営業すればいい」という考え方だけではうまくいかないと思っています。日本企業が世界で後れを取ってきた要因を、この業界でも繰り返してはいけないという危機感が、私の原動力になっています。

ー制作現場では、日本とハリウッドでどのような違いがありますか?

井崎:日本の制作現場は、仕事が人に属人化していることが多いのが実情です。その結果、共通の基準ではなく「人」が基準になってしまい、スタジオごとにやり方や文化が大きく異なっています。一方、ハリウッドでは大規模な制作を支えるため、個人ではなくシステムやルールに基づいて制作が進められています。共通のルールがあるからこそ、ヨーロッパやオーストラリア、インドなど世界各地のスタジオと連携しながら制作を進めることができます。

楢葉:そのシステム化に大きく通じる部分で重要になってくるのがプリプロダクション(実際の制作が始まる前に、作品の方向性や仕様を決める工程)です。日本ではこの工程に十分な時間を割けないまま制作に入るケースもあり、その結果、手戻りや無駄な作業が発生して現場が疲弊してしまうと感じています。

井崎:そうですね。プリプロダクションを重要視することをはじめ、どうやったら無駄なくクオリティが高いものが作れるのかというノウハウは、日本にももっとインストールしていきたいと思っています。

ーハリウッドの仕事ではなく「日本の作品をハリウッドレベルにする」という方向を目指されることはありますか?

井崎:もちろん、日本の作品をハリウッドレベルに持っていくということも素晴らしいことだと思うので、日本の仕事も多くしています。ただ、私たちの強みは「難しいことができる」こと。その強みを生かし、「この仕事ならSEN PICTURESに任せたい」と国内外から選ばれる存在でありたいと思っています。

楢葉:企画から最後まで一貫してモノづくりをする体制は理想ですが、それだけでは事業として大きく広げるのは難しいと考えています。だからこそ、特定の監督や作品だけではなく、世界中の難しい案件が集まる技術集団でありたいと思っています。

ー業界そして御社的にも「AIとはどういう風に付き合っていくか」を伺えますか?

井崎:AIの活用には大きく二つあると思っています。一つは最終的な映像そのものをAIで生成すること、もう一つは制作工程(パイプライン)にAIを組み込むことです。

前者については、著作権などの課題が解決していない以上、本番映像への全面的な活用はまだ先だと考えています。一方で、バックオフィス業務や制作工程へのAI導入はすでに進んでいて作業効率化には積極的に取り入れています。あくまでもAIもツールの一つという考え方ですね。

楢葉:映像制作では、AIが得意な領域と、人が担うべき領域があると思います。

例えば、作品の中心となる「ヒーローオブジェクト」は演出や感性が重要になるため、手作業による表現は今後も欠かせません。一方で、周辺要素はAIによる自動生成が急速に実用化されていて、低予算の案件を中心に今後さらに広がっていくでしょう。ただ、私たちはそうした背景素材を大量に作ることが目的ではありません。AIを使って単にコストを下げるのではなく、企画やコンセプトづくりを含め、「これまでできなかった表現」を実現し、作品の価値を高めるために活用したいと考えています。

ー今後人を増やしていくにあたって、どんな方を増やしていきたいですか?

井崎:今はまず「プロデューサー」ですね。ハリウッド基準のプロデュース能力というのはなかなか難しいですが、システム的に考えた時に、全体を見られる視点が大切になるため、VFXプロデューサー、VFXスーパーバイザーは絶賛募集中です。

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ー今後のビジョンをお聞かせください

楢葉:創業してから3年経った時には、グローバルに誰でも知っているような大手のお客さんから、直接コンタクト(直請け)でお仕事ができるような立場になりたいと考えています。普通だったら10年かけて目指すようなレベル、さらにその先を3年間で目指しています。

ーデジタルハリウッドで受講中、今後受講されたい人にはどんなことを意識し、学ぶべきかメッセージをいただけますか?

井崎:ビジュアルエフェクト(VFX)にはさまざまな専門分野があり、それぞれ求められる資質が異なります。だからこそ、一つが合わなくても別の分野では力を発揮できることもある。デジタルハリウッドのような学校でまずやっぱり一通りやってみることは重要だと思いますし、そこから自分の得意な領域を早く見つけて、その分野で一番を目指してほしいですね。実際にデジタルハリウッドで教えていた時の教え子とも業界で会うこともあります。ぜひ皆さんにも頑張ってほしいです。

著者: デジタルハリウッド編集部

デジタルハリウッド編集部は、全国に展開する「デジタルハリウッド」のスクール運営・広報チームによって構成されています。
3DCGを学ぶ受講生一人ひとりの学びと挑戦を日々サポートしてきた経験をもとに、現場のリアルな声や卒業生インタビュー、最新の学習トピックスなど、クリエイティブな学びに役立つ情報を発信しています。