公開日:2025-07-18



TVCMや映画を中心に、日本のVFX(ビジュアル・エフェクツ)表現をリードしてきたクリエイターが揃う組織である株式会社十十(jitto)へ企業訪問し、デジタルハリウッド卒業生の恵美孝彦さんにインタビューを行いました!

株式会社十十(jitto)について

株式会社十十(jitto)ではどんな仕事が多いですか?

▲ 入口には素敵なネオン管が…!

MV(ミュージックビデオ)やCMといった映像コンテンツの制作に関わる案件が多くを占めています。近年は映画作品への参加も増えており、活動の幅が少しずつ広がっています。

手がけるプロジェクトの多くはVFXを用いた映像で、フルCGというよりは実写映像にCGを加えるタイプの合成表現が中心です。

特徴的なのは、撮影前の段階から制作に関与することが多い点です。監督や制作スタッフと直接やり取りし、プリビズ(Pre-Visualization)※1を使って構成やアングルを事前に検証します。そのうえで、撮影にも立ち会い、VFX合成を前提としたカメラワークや画づくりの提案などを行っています。

このように、ポストプロダクションだけでなく、企画段階から撮影現場まで幅広く関わるケースが多く、監督や制作会社から直接依頼を受けるプロジェクトが多いのが弊社の特徴です。

※1プリビズ(Pre‑Visualization/プリビジュアライゼーション)とは、映像制作における「動く絵コンテ」であり、VFXを含む複雑な映像を本番撮影やCG制作の前に、ラフな3D映像で視覚化して共有する手法です

株式会社十十(jitto)ではどんな役割を担当されていますか?

▲ シックでおしゃれな試写室。

CGスーパーバイザーとしてプロジェクト全体のVFXやCGに関わる監修を担当しています。

具体的には、CGのクオリティ管理やチームのマネジメントを中心に、どのような工程が必要かを整理し、必要な人数やスケジュール、コスト面についてプロデューサーと相談しながら進行を組み立てていきます。

社内のリソースだけで足りない場合には、外部の信頼できるクリエイターに声をかけて協力をお願いすることもあります。交渉や調整も業務の一部です。

また、自身もCGアーティストとして手を動かし、他のメンバーのプロジェクトに制作面で参加することもあります。

株式会社十十(jitto)の特徴や社風を教えてください。

作品2
▲ 開放感がありクリエイティブな発想と高い集中力が引きだされそうなワークスペース

弊社の特徴の一つはCGアーティストとオンラインエディターが同じ空間で作業している点です。他のスタジオでは部署やフロアで別れて作業することが多いと聞きますが、弊社ではワンフロアにスタッフ全員が集まっているため、進行管理や素材のやり取りがとてもスムーズに行えます。

特にCM案件などでは納期が短いため、社内で完結できるこの体制が強みになります。「こういう出し方をしてほしい」「素材をこう分けてほしい」といった細かなリクエストを、その場で気軽に伝え合える環境があり、タイムラグが最小限で済むことで、制作スピードの向上やクオリティの維持・向上にもつながっています。

社風については、「映像をより良くしたい」という思いを持ったメンバーが多く、自然と熱量のある現場になっています。それぞれが真剣に作品と向き合っており、「自分も負けていられない」という気持ちにさせられるような、いい刺激がある職場ですね。

デジタルハリウッドでの学びとキャリア形成

デジタルハリウッド入学前はどのようなことをされていましたか?

入学前はずっとミュージシャンとして活動していました。音楽活動を続けていく中で、自分の楽曲をどうやって広めていくかを考えるようになり、当時流行していたリリックビデオに着目しました。「これをうまく使えば、もっと多くの人に音楽を届けられるんじゃないか」と思い、モーショングラフィックスを独学で作り始めたのがきっかけです。

その中で、ケミカル・ブラザーズやゴリラズのCG表現に衝撃を受けたんです。「CGと音楽って、こんなに相性がいいんだ」と感じて、映像やCGの世界に興味が湧きました。とはいえ、完全に独学でやっていくのは難しさもあり一度きちんと学んでみようかなと、デジタルハリウッドに入学しました。

実際にCGを学んでみていかがでしたか?

CGってめちゃくちゃ面白い! というのが最初の感想です。ただ同時に、「考えることが多いな」とも感じました。モデリングは分かるけど質感を数字で表すなど、数学的・理論的な思考が大切だと知りました。

でも、音楽制作でもミックスやマスタリングなど、論理的に組み立てる工程があるので、そういった考え方には馴染みがありました。私自身、高校時代からPCで作曲をしていて、自宅でDTMやレコーディング作業もしていました。そうした経験から、ツールを使って何かを形にしていくことには馴染みがあり、CGの制作にも自然と入っていけたように思います。

もともとモノづくりが好きで、レゴや立体物を作るのも好きでしたし、絵を描くのも楽しかった。CGを学んでいく中で、「これ、レゴに似てるな」「子どものころに好きだった感覚を思い出すな」と思う瞬間があって、まさに遊びの延長にある仕事という感覚があります。

デジタルハリウッドで学んで良かったと思うポイントは?

一番大きかったのは、先生やTAの方々が現役の業界人だったことです。ソフトの使い方や技術的なノウハウはもちろん、実際の現場での考え方や心構えなど、学校ではなかなか聞けないようなリアルな話をたくさん聞けたのが貴重な経験でした。また、セミナーや特別授業の機会も多くて、業界内外の幅広い話が聞けたのも良かった点です。クリエイターズオーディション ※2 も今の会社との出会いの場であり、感謝しているイベントです

学校の設備が24時間使えるというのもありがたかったですね。夜遅くまで残って作業する中で、自然と周囲とのつながりも深くなっていきました。できる人、同じ熱量を持った人が集まる時間帯があったんですよね。そうした仲間との出会いは、今でも大きな財産です。

※2クリエイターズオーディション:デジタルハリウッド伝統の企業とのマッチングイベント

デジタルハリウッドでのつながりは今も続いていますか?

続いていますよ!先生とも卒業後に飲みに行ったこともありますし、今でも親しみやすくて面倒見のいい、尊敬する人のひとりです。

今でも当時の仲間でつながっている人もいますし、現場で再会することもあります。学んだことだけでなく、人とのつながりや環境そのものが、いまの自分につながっていると実感しています。

これから映像・CGの道を目指す人へ応援メッセージ

まずはデジタルハリウッド在学中にやっておくとよいことを現役生にアドバイスをお願いします

CGの技術を学ぶことはもちろん大切ですが、それと同じくらい「人間力」を磨くことが重要だと感じています。仕事は必ず人と人との関わりがあり、チームで動くことが多いので、コミュニケーション能力や自分の考えを言葉にして伝える力(言語化力)を身につけることが欠かせません。

デジタルハリウッドで出会う仲間も含めて、人脈は業界で生きていくうえで非常に大切な資産です。これは企業に就職した後も変わらないことだと思います。

その重要性に気づいたのは実際に会社に入ってからでしたが、在学中からセミナーやCG関連のイベントに積極的に参加し、顔を出して自分を知ってもらうことも大切な準備だと感じます。

私が主催している 【クリエイターズHUB】 というCG・映像業界の交流を目的としたイベントもあります。現役の業界の方たちを対象としたイベントですが、学生の頃からこういった場に参加するのも良い経験だと思います。

映像業界を目指す人全体へ応援メッセージをお願いします

ただ「やりたい」「入りたい」という気持ちを持つだけでなく、その熱意を周りに伝えることがすごく重要です。口に出すことで自分自身に火が付きます。

また、いろいろな映像作品を積極的に見て、「こんな映像が好きだ」という思いを人に話したり、言葉にして伝えたりすることも大切です。制作技術だけでなく、こうした「言語化能力」も評価されるポイントになります。

実際の業界では、 全体の7〜8割は技術力が占めるとは思いますが、場合によっては熱意や理解力、そして自分の思いを上手に伝えられる「人間力」が採用の決め手になることもあります。 こういった部分は仕事の結果や信頼にも大きく関わってくるのでとても重要なポイントだと思っています。

CGや映像の仕事って、本当はもっとカッコいいって思われていい世界だと思うんです。
だからこそ、もっと自分の想いや個性を外に出して、胸を張ってこの業界で輝いていってほしい。
そんな人たちが増えることが、業界全体の未来にもつながると信じています。

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