公開日:2023-07-01
3Dデータを出力できる3Dプリンタの普及によって、3Dモデリングの需要が高まっています。それと同時に、インプットできる3Dスキャナーへの関心も高まっています。今回は3Dスキャナーについて説明していきます。
3Dスキャナーとは
「3Dスキャナ(3次元計測機)」とは、2Dスキャナーのような1枚の画像をスキャニングしてデータにすることと同様に、立体物をスキャニングしてデータにします。別名、3次元デジタイザと呼ばれます。
3DCGの現場以外にも、義手や義足のための人体のスキャン、機械部品の試作などにも用いることができ、医療の分野や自動車メーカーなども取り入れています。立体物であればスキャンできることから応用がきき、可能性は非常に広いため使用される分野が急激に増えています。昨今ではスマホなどのカメラでもデジタイズできるアプリがあるので昔よりも身近な技術になってきています。
3Dスキャンの流れ
対象の立体物の凸凹を感知し、「高さ(X)」「横幅(Y)」「奥行き(Z)」の座標データを取得します。取得したデータは「点群データ」という座標情報の集まりでできています。この点群データは「ポリゴン」と呼ばれる多角形の集まりで形成されたメッシュデータとして変換を行い、3Dの立体データとなります。
3Dスキャナの種類
接触型
接触型は直接立体物に触れて接触した部分の凸凹の計測を行います。プローブ(深針)を接触させて行うため、精度の高いスキャンが行えます。しかし、動かす速度を一定にする必要があることや、設置場所に大きなスペースが必要、時間がかかるなどのデメリットがあります。また、プローブが入り込めない部分は計測を行うことができません。そのため、現在は後述の非接触型の普及が著しいです。
非接触型
非接触型は、更に「レーザー光線タイプ」「パターン光投影タイプ」の2つに大きく分類されます。直接対象物に触れないため大型のものでも測定することが可能で、技術がなくても短時間で正確に測定可能となります。
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レーザー光線タイプ
その名の通りスリットレーザーというレーザー光をあて、反射光をセンサーで認識することで被写界深度距離を測り形状を認識して立体とします。明るい場所で計測が可能です。価格帯も低価格なものなども存在し、取り入れやすくなっています。デメリットとしては表面がボコボコとしてしまうなどスキャンが揺れてしまうことがあります。 -
パターン光投影タイプ
立体物に縞模様やQRなどのパターンをあて、投影されたパターンの歪みや形状の変化をもとに形状を認識して立体とします。高速であり、正確なスキャンが可能です。明るい場所での計測ができず、暗所での作業が必要となります。
非接触型には、据え置きタイプとハンディタイプがあります。大きな対象物などのスキャンを行う時は据え置きタイプを使用することが多く、見えていない部分(窪んでいるなど)はハンディタイプで読み取りを行います。ハンディタイプは読み取りにくい箇所も読み取ることが可能となりますが、手で持つため揺れが生じてしまうというデメリットがあります。
3Dスキャンができない場合とは?
3Dスキャンをする際に、レーザー光を利用して計測しているため、場合によってうまくスキャンできないものがあります。3Dスキャンがうまくできない形状や色について書いていきます。
3Dスキャンができない形状
動物や液体
動物や液体は動きを止めることができない対象物なので、スキャンすることができません。
メッシュ、レース、毛皮などの素材
メッシュなどは、光を透過してしまう素材のため、スキャンすることができません。
複雑な模様
また、あまりにも複雑な模様、凹凸の激しいものはスキャンに向きません。細いストライプや小さな水玉などはうまく再現されないので注意が必要です。
細長い形状や薄い形状
厚みの薄いものをスキャンすると、表面から裏面へのスキャンを行う際に失敗することが多いため、隣に他の物を置いたり、床ごとスキャンするなど工夫してスキャンすることがあります。それでもあまりに薄いものなどはうまくスキャンできません。
3Dスキャンができない色
黒いもの
非接触式の3Dスキャナーは、スキャンする際にレーザー光やLED光を測定対象物へ照射し、反射によって形状を計測します。そのため、光を反射しない、黒はスキャンできません。
透明なもの
黒と同じく光を反射しない透明はスキャンできません。正確にいうと、透明なものは透明なものを通りこして、その先のものがスキャンされてしまいます。
鏡面
色ではありませんが、鏡面もスキャンできません。光を反射し過ぎてしまうためです。水面も鏡面と同じ現象が起きてしまうため、スキャンできません。
3Dスキャナーの注意点
いきなり3DCADデータはできない
3Dスキャナーでスキャニングしたあと、3DCADCADデータにもっていこうと思っている方もいるかと思います。しかし、スキャンデータは点群データのため、そのまま3DCADにもっていき、編集することはできません。まず、点群(ポリゴン)データをCADデータへ変換する必要があります。CADデータに変換するにはまず点群データをメッシュ化し、スキャンできなかった箇所の穴埋めを行います。そして穴のないメッシュデータを作成した後、メッシュデータからサーフェス面を生成します。
3Dスキャナーの使用はテクニックが必要
3Dスキャンは、1度スキャンしただけで完璧なデータが取れるわけではありません。違う角度からのスキャンなどを何度か繰り返し、重ねることでより完璧に近いデータにしていきます。だからといって、データが多ければ多いほどいいかというとそういうわけではありません。少しでもすれたデータを重ねてしまうと誤差が生まれてきます。なるべく少ない回数で、より精度の高いデータをとるために、テクニックを必要とします。
カタログと実際のスキャニングが異なる場合がある
みなさんがスキャナーを選ぶ際に、カタログで性能をチェックすると思います。カタログに掲載された仕上がりをみて、このように出来るんだ、と実際にスキャンしてみてもカタログ通りにいかないといったことも起こりえます。
3Dスキャナーの性能は精度で見ます。長さ、点群のバラつき、繰り返し測定したときの結果など様々な視点から精度を確認するのですが、カタログによって「精度」「測定精度」「確度」など表現がバラバラです。そのため、それぞれ違う精度を表していることもあり、思っていたのと違う結果になることがあるのです。
3Dスキャナーの活用例
建築、土木現場
以前は2次元の図面を用いて工事の計画を進めていたものが、3次元のデータで設計をすることによりより細かなイメージを保つことができるようになりました。現況測量、施工測量、および点検目的のモニタリング作業を効率化することができます。計り漏れなどの人為的ミスも減らせるので、工期の短縮・品質の向上につながります。
プラント工場
配管などが複雑な箇所にも3Dスキャンデータが役立ちます。特にプラント工場では竣工当時の図面が残っていない場合もあるので、3Dスキャンで現状を把握するとよいでしょう。
歴史的建築文化財
古い構造物や遺跡、世界的な遺産が老朽化や災害などによる崩壊でしてしまうのは防ぐことができませんが、データとして残すことで復旧作業に繋げたり、その時代特有の装飾などを伝えていくことができます。
日本最初の事例としては2014年山口県下関市による記念事業「旧下関電信局電話分室」の3Dデータ化があります。
まとめ
3Dスキャンについてお伝えしました。
個人でやる場合にはそれなりのテクニックが必要で、加えて注意事項も多いので、しっかりと準備をして取り組む必要があります。しかし、2Dでは実現できないものが実現できるので、うまく使いこなしたいところです。
企業では自動車業界、航空宇宙業界、防衛産業業界、製造業界、建設業界と使用される場面が広がっています。新しい技術をうまく利用し、効率よく作業を進めていく、可能性が広がる3Dスキャン。今後さらに活躍の場が広がっていくことでしょう。