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【東京本校/イベントレポート】 渋谷のスクランブル交差点をアニメーションでどう再現したのか!? 『バケモノの子』CGメイキングセミナーレポート

2015-09-13

【プロフィール】秋山 知広 氏 1979年生まれ。デジタルハリウッド卒業後、ポリゴン・ピクチュアズ所属。 2006年よりFXグループリーダーとしてチームを束ねながら、 エフェクトスーパーバイザーとして多くの映画、 TV、 ゲーム映像などの案件に関わる。 代表作は「ストリートファイターIV」「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊2.0」「Tron: Uprising」など。 最新作の 劇場アニメ3部作 第1部『亜人 –衝動-』では、 形状が常に変化し続ける特殊なキャラクター<IBM>のアセット開発と、 Houdiniパイプライン開発を担当した。

こんにちは。
デジタルハリウッド東京本校の下島です。


2015年12月18日(金)本校駿河台ホールにて、今冬公開された3DCG映画『亜人 -衝動-』のCGメイキングセミナーが開催されました。


本学卒業生でもあり、現在は株式会社ポリゴンピクチュアズ でFXスーパーバイザーとしてご活躍中の秋山知広さんがご登壇され、CG技術がどのように作中で使われていたのかをたっぷり語っていただきました。本作は、原作が漫画「亜人」ですので、これをアニメ化するにあたりどのような苦労や工夫があったのかを、3DCGのHoudiniというソフトを実際に使い、制作時のデータなども見せていただきながらの「チョット奥深いCG話」をしていただきました。初心者の方にとっては、難しい用語がありましたが、本ブログではIBMというキャラクター制作のお話をメインにできるだけわかりやすくセミナー概要をまとめましたのでご一読ください。



『バケモノの子』は3分の1がモブ(群集)のシーン!?


ところで、『バケモノの子』はもうご覧になりましたか。

今回舞台となった人間界の「渋谷​」とバケモノ界の「渋天街(じゅうてんがい)​」。どちらの世界も圧倒的なスケール感と緻密な街の作り込みでキャラクターとストーリーを盛り上げる演出に一役買っていましたが、それを表現するためにCG技術が多用されています。



細田守監督の絵コンテは非常に丁寧で、CGに関しても事細かに指示されていることもあるそうです。そういったものが無いカットでは文章の意図を読み取り演出を考えていくそうです。

堀部さんは今回渋谷の街を制作するにあたり、①渋谷らしい雰囲気 ②画面の密度感 ③生きている街を表現する ​という3点を心がけたとのことですが、それにCGの技術として最も貢献したといえるのが「モブ(群集)の表現」ではないでしょうか。


背景として何人ものキャラクターを描かなければいけないモブの表現は、アニメーション製作の中でも大変な作業とされています。しかしながら、手描きのみのアニメーションと比べてCGを用いることで、効率よく群集を量産させることが出来ます。

細田監督の前作『おおかみこどもの雨と雪』でも植物を揺らすシーンで同じ技術が使われていました。とはいえ今作では、全体1550カットの内、3分の1の480カットにこのモブの表現が使われているそうです。驚きの量ですね。堀部さんも、とにかくボリュームがすごかったとおっしゃっていました。

スクランブル交差点を再現するにはモブが1,500体 必要!?

まず、堀部さんは渋谷のスクランブル交差点やセンター街を再現するためにロケハンに行ってみることから始めたそうです。

観察してみると、通行人は服装や動きも皆バラバラ。しかも、参考にスクランブル交差点の全景を写真撮影して人数を数えてみると、遠くの道の向こうに見えてる人たちも含め、その密度を再現するには500体ほどモブを作らなければいけないということが分かってきたそうです。

そこで、モブを一から1体ずつ作っていたのでは時間がかかってしまい効率的ではないと判断し、堀部さんは以下の解決策を導き出しました。


・人物の服・頭・上着をパーツごとに作成しデータベース化

・パーツを組み合わせることによってバリエーションを作る

Autodesk社のMayaというソフト上で扱える「MOB Tools」というモブ作成用のツールを2~3ヶ月かけて独自に開発し、人物の太っている、やせているなどの体型に加え、舞台設定の2006年当時の渋谷のファッションを研究し、小物(女性のカバンなど)や靴、帽子をアイテムとしてデータベース化していったそうです。

※中にはお母さんのモブが抱っこするための赤ちゃんなどもアイテムとして作られていたとのこと。
※2006年当時はスマホよりもガラケーが主流。冒頭の渋谷のシーンではスマホの人は歩いていない。


そこから各々パーツを組み合わせ、パレット(セルの色彩設計担当の方からいただいた色をあらかじめ設定して固定してある)から色を選択していくことで大量のバリエーションを出せるようにしたとのこと。結果的には平均して1日20~30体のモブの量産が可能になり、男女で250種類以上。場面内の季節や内容によって増えるので300種類ぐらい作ることが出来たとのことです。

さらに最終的な本番のスクランブル交差点のカットでは、より密度を増すために1500体以上のモブを配置し、
シミュレーションを行ったとのことです。

 

動きや表情など細かいディティールにも対応!

モブはその他にも細かな演出にも合わせられるよう設定されているそうです。

<カメラの距離によるディティールの変化>

遠くにいる場合は線を少なくし、顔ものっぺらぼう状態に。近くにいる場合は服のしわまで見えるようにするなど、カメラの距離によるディティールの変化にも対応。

<影の表現>

CGからのシルエットをそのまま影として落としてしまうとリアルになってしまい、手描きで描かれたデフォルメされた影との差が出てしまうため、あらかじめモブの中にシンプルなオブジェクトを仕込みその影を落とすようにされたとのこと。

<モーションの使い分け>

画面の遠くにいるモブは「Massive」という群集シミュレーションソフトを使用。これは動きを設定するとAI(人工知能)のように1体1体が考えて行動してくれるというもの。シミュレーションするための動きの仕込みが大変らしいのですが、何度も調整を繰り返して動きをつけていったそうです。

手前にいるモブは主要キャラクターとの動きのタイミングやポーズを細かくいじるためシミュレーションは使わずに、直接手で置いて進めたとのこと。

※ちなみ渋天街の闘技場に出てきた観客のシミュレーションに関してはMayaの「Miarmy(マイアーミー)」というプラグインを使用していたとのこと。


また、外部の作画担当の方がモブを描く際に人の動きに変化をつけるポイントをアドバイスしてくださったそうです。体の軸をまっすぐにしてしまうとつまらない画になってしまうので、斜めにすることで今にも動き出しそうな画になり画面栄えするそうです。行き交う人たちも軸を互い違いにすることでより変化を出しやすいそうです。

<フェイシャル(表情)の表現>

本作はカット数が多いのですが、カット毎に喜びや悲しみなどの状況に合うフェイシャルを作成。目や口のパーツをポリゴンの板に貼り手置きしていったそうです。

いかがでしたでしょうか。



実際にお話を伺った後で再度モブのカットを観てみても、作画とCGの境界が分からないほど上手く溶け込んでいますし、初見では見逃してしまうような背景のビルの窓ガラスの中にもしっかりと存在しているのが分かり驚かされました。

こうした細かい調整の積み重ねによって渋谷や渋天街が「生きている街」として作中で表現されているんですね。

今回は大変有意義な時間を過ごすことが出来、自身の中で群集シミュレーションを使ったアニメーション制作も今後触れてみたい技術のひとつになりました。また、私自身『バケモノの子』を鑑賞したばかりでしたが、セミナーで伺った内容に注目しながら近日中にまた観にいきたいと考えています。

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