公開日:2025-12-21
パススルーとは何か
パススルー(Passthrough)とは、XRデバイスに搭載されたカメラで現実世界を撮影し、その映像をゴーグル内に表示する仕組みのことです。
ゴーグルを装着したままでも、
- 自分の部屋
- 床や机
- 周囲の人
といった現実空間が見える状態になります。
この仕組みによって、現実空間の上にデジタルオブジェクトを重ねる体験が可能になり、VR(仮想現実)だけでなく MR(複合現実)や空間コンピューティングが実現します。
VRとの違いで理解する「パススルー」
従来のVRは、ゴーグルを装着すると視界が完全に仮想空間に切り替わり、現実世界は一切見えませんでした。一方、パススルーを使うと、
- 現実の部屋が見える
- その空間にCGやUIが表示される
- 実際に歩いたり、手を伸ばしたりできる
という体験が可能になります。
つまり、
- VR:完全に仮想世界に没入する
- パススルーMR:現実空間をベースにデジタルを重ねる
という違いがあります。
パススルーで「できること」
パススルーを使うことで、XR体験の幅は大きく広がります。
現実空間を使ったMR体験
部屋の床にキャラクターを立たせたり、机の上に3DモデルやUIを表示したりと、現実の空間そのものを舞台にした体験設計が可能になります。
安全に動けるXR体験
周囲が見えるため、
- 歩き回る
- 手を大きく動かす
- 人と一緒に体験する
といった動作がしやすくなります。特に教育・研修・展示用途では重要なポイントです。
業務・研修・シミュレーションへの活用
パススルーはエンタメだけでなく、
- 作業手順の可視化
- 機器操作のトレーニング
- 建築・製造のシミュレーション
など、業務用途XRとも非常に相性が良い技術です。
パススルーで「できないこと・限界」
一方で、パススルーには制限もあります。
現実が完全に高精細に見えるわけではない
カメラ映像を通して見ているため、肉眼とまったく同じ解像度・奥行き感にはなりません。文字を長時間読む、細かい作業を行う用途にはまだ向かないケースもあります。
デバイス性能に大きく依存する
パススルーの品質は、
- カメラ性能
- 処理能力
- センサー精度
に強く依存します。
たとえば、
- Quest 2:白黒・低解像度寄り
- Quest 3 / Vision Pro:高解像度・カラー対応
と、体験の質には大きな差があります。
すべてのXR体験がMR向きではない
没入感を最優先するゲームや映像体験では、あえてVR(非パススルー)の方が適している場合もあります。パススルーは「万能」ではなく、目的に応じて使い分ける技術です。
XR制作・学習におけるパススルーの重要性
近年のXR開発では、
- Meta Quest 3 / 3S
- Apple Vision Pro
の登場により、パススルー前提のMR体験設計が標準になりつつあります。
Unityなどの開発環境でも、現実空間とデジタルをどう組み合わせるか、人の動きや手の操作をどう取り込むか、といった設計力が重要になっています。
そのためパススルーは、「XRを体験するための機能」ではなく、XRを作る人にとっての基礎概念と言えるでしょう。
まとめ
パススルーとは、現実空間を見ながらXR体験を行うための基盤技術です。
- VRとMRの違いを生む核心的な仕組み
- XR体験を安全・実用的にする要素
- 業務・教育・空間コンピューティングの要
として、今後ますます重要性が高まっていきます。XRを学ぶ・制作するうえで、「パススルーを前提に考える」ことは、これからのスタンダードになっていくでしょう。