こんにちは、本科デジタルデザイン専攻(現UI/UXD専攻)の三上です。
私はUI/UXデザインゼミに所属し、サービスデザインについてこれまで学んできました。
そんな中2月23日に、東京本校にて、未来の体験をデザインするクリエイター集団『PARTY』のメンバーを講師として招いたUXデザインに関する特別授業「一緒に描くUXデザイン ~体験をデザインする思考力 by PARTY~」が開催されました。
せっかくの機会だと思い私もイベントに参加してきましたので、本記事では当日のイベントの様子や学んだUXデザインに関する情報をレポートさせていただきます。UXデザインに興味・関心のある方はぜひ参考にしてみてくださいね。
クリエイター集団」PARTYについて
『PARTY』は、最近話題のビットコインを用いたマイクロトレードサービス「VALU」をリリースしたり、【触れるデザイン。浴びるデザイン。】 と題して、東京のど真ん中、ミッドタウンで野菜を育てるプロジェクトなど、常に新しい挑戦をしている、いま国内外でもっとも注目されている「クリエイター集団」です。
活動の場は日本のみならず世界に広がり、現在は東京とニューヨークにオフィスを構えています。様々な課題やクライアントのニーズに対応すべく、「ビッグデータ」「VR」「IoT」など、最新のテクノロジーとストーリーテリングを融合し、未来の体験をデザインし続けています。まさに「UX」を学ぶなら、その動向には目が離せない存在です!
特別授業の概要
今回のイベントは「一緒に描くUXデザイン ~体験をデザインする思考力 by PARTY~」と題し、PARTYの中心人物の1人であるクリエティブディクレター伊藤直樹氏をモデレーターに、他4名のメンバーを講師として、これからのクリエイティブ業界に求められる発想方法を、いち早く取り上げる授業内容となりました。
最近話題の「VALU」や「でじべじ -Digital Vegetables- by PARTY」を事例に、どのように体験をデザインし創り上げていったのか、その背景やプロセスをご共有いただきました。
また講義の最後には、なんと登壇した講師陣により作品・ポートフォリオ添削の時間もあったりと、卒業制作に向け活動していた私としてはまたとない機会となりました。
事例紹介 (1) VALU(バリュー)
まず最初の事例紹介として、サービス開始直後からネット上で話題となったサービス「VALU(バリュー)」がリリースされた背景について、エンジニアであり代表取締役の小川晃平氏が登壇しました。
VALUとは?
VALUは個人の価値をトレーディングカードに見立て、交換譲渡可能にしたSNSサービス。ユーザーのSNSアカウントなどを解析し、個人の価値の総量、つまり個人の時価総額を算出します。発行した本人が、VALU独自のトークンである「VA」として売りだせば、VALU内で他のユーザーはそれを購入することができます。つまり個人レベルで資金調達ができるということです。
取引通貨は最近何かと話題になる仮想通貨「ビットコイン」で行われ、VAは需給によって価格が上下します。私の友人や会社の同僚も、VALUリリース直後にはユーザー登録したり、審査に落ちて悲しんでいたりなど盛り上がっていましたね(笑)。
講義を受けての感想
講義はVALUについての紹介だけでなく、そもそもお金の本質とは何か?というテーマから始まりました。小川氏によれば、「お金は信用を交換・譲渡可能にしたもの」で、それは常に進化を続けているとのこと。金本位制、ポンド本位制、ドル本位制と移り変わり、そしてなぜ今ビットコインが注目を集めているのか、そもそもビットコインとは何なのかということが語られ、さらに、社会的な本質的価値とは何か、通貨を支えている政府と中央銀行の仕組みとは、話題のピケティの経済学などなど、次々と話が発展し、理解しようと追いついていくのがなかなか大変でした(汗)。
VALUをリリースした理由について
もともと小川氏自身はグリーでエンジニアをされていて、主にモバイルアプリゲームの開発に携わっていたようです。2012年よりグリーのアメリカ支社への赴任などを経て、帰国後は退社し、フリーランスとして活動を開始。ですがフリーランスになると年収が半分になり、節約生活をしたり、社会的信用が落ちることで賃貸の保証が下りず借りられなかったり、クレジットカードの限度額が落ちるなど、大変なことも多かったとのこと。
「個人の時代」だと言われているのに、個人が活躍できない日本の現状に疑問を感じた小川氏は、個人をトレーディングカードに見立てたトークンを発行し、個人の価値に応じて資金調達できる、それによって個人がやりたいことを実現し活躍できる社会を目指すためにVALUをリリースされました。
社会を変えるサービス・事業を生みだしていくのであれば、これまでの社会の歴史やそれを成り立たせている仕組みをしっかり理解し、本質的に解決できていない課題を見出し、新たなテクノロジーでそれを誰よりも早く解決する、そのスタンスを持つことが大切なのだと、今回小川晃平氏の話を伺い考えることも多く、とても勉強になりました。
VALUのUXデザインについて
続いて、そのVALUの具体的なUXデザインについて、デザインに携わったPARTYのインフォメーションアーキテクト阿久津達彦氏が解説されました。
VALUは2017年5月31日にローンチしているのですが、実際はまだBETA(ベータ)版です。BETAとは、最終的な段階のプロダクトではないが、十分公開できるもの、という定義とのこと。UXデザインを実践していくのであれば、そもそもモノごとは不完全であることを認識した上で、ユーザーの声を聞き常に改善していく姿勢・考え方、「BETAメンタリティ」を持つことが大切であると、阿久津氏は語ります。
VALUはリリース後のこれまでの10ヶ月間で、なんと50回以上もアップデートを重ねているそうです。その中には利用規約の変更など細かいものや、ハッシュタグ機能の追加などSNS機能のバージョンアップなど色々なアップデートが含まれていますが、そのような改善の積み重ねの中で、現在VALUのユーザー数は10万人以上と常に伸び続けています。
またサービスのローンチ後も、ハードフォークやBTC暴落など仮想通貨周りで大きな動きがありました。絶えず変わり続ける世の中の動きに合わせて、サービスを調整・改善していくことを意識していくことも必要です。
UI、UX、ビジネスと3つのレイヤーを支えているのはテクノロジー
特に阿久津氏は、UXを実践し、また新しい体験をユーザーに届けようと思うのであれば、常にテクノロジーの変化を追い、新しいテクノロジーをしっかり理解していくことが大切だと述べます。先行者としてUXをいかにつくるか、新しい体験とはそもそも何か?それを考えていく必要があります。
VALUは「ブロックチェーンと個人の価値」をテーマとしていますが、色々な仕組みを取り入れていく中で今のVALUができています。現在はソーシャルネットワークとしての機能強化に力を入れているとのこと。
このように、新しい体験を設計すること、それはつまり既存の体験を組み合わせた混合物です。新しいものはそもそもあまりなく、既存のものから色々な良い部分を組み合わせて良いところ取りをしていくなかで、新しい体験の仕組みができ上がります。
その仕組みは、突き詰めるとテクノロジーであると、阿久津氏は指摘します。新しい体験を生み出すサービスは、常に新しい技術によって支えられています。
UI、UX、ビジネスと3つのレイヤーがありますが、その全てを支えているのはテクノロジー。そしてVALUはブロックチェーン技術を基盤としています。ですので、そのテクノジーのコアを理解しないと、UXもUIもないし、発展していかず、深いレベルでのUXにたどり着きません。
逆に言えば新しいテクノロジーを、良いユーザー体験に変換することさえできれば、例え完成されたプロダクトでないBETA版であったとしても、付いてきてくれるユーザーが必ずいます。あとはBETAメンタリティで、ユーザーと一緒に爆速で改善していくのみ。これからは仕組みと技術に強い、UX/UIデザイナーになっていくべき、と最後に阿久津氏は語ります。
講義を受けての感想
これからUXデザインを実践していく上で、とても参考になる講義でした。私も含めてですが、デザイナーというと、どうしても技術的に突っ込んだ部分への理解が疎かになってしまう方も多いかと思います。
しかしこれから新しいユーザー体験をトータルで考えプロダクトづくりをしていくのであれば、最新テクノロジーへの理解は必須ということで、これからは意識的にキャッチアップしていくことができればと思います。求められる知識や領域はどんどん広がる一方で大変ですが、同時に常に新しいものに触れていくことができるのは設計に携わる人間として魅力的かつ楽しいところですよね。
事例紹介(2) でじべじ
続いての事例紹介は「でじべじ -Digital Vegetables- by PARTY」について。制作を担当した総合プロデュサー林重義氏、映像監督・空間デザイナー寺島圭佑氏にご登壇いただきました。今回のテーマは「でじべしの体験の作り方」。
寺島圭佑 (アートディレクター) 講師 林重義 (テクニカルディレクター)
「でじべじ」は、2017年10月17日から11月5日にかけて六本木 東京ミッドタウン にて開催された、“ふれる体験”をテーマとしたインタラクティブなインスタレーション作品。
でじべじ –Digital Vegetables– by PARTY from PARTY on Vimeo.
芝生広場に、幅6m×長さ30mと巨大なビニールハウスを設置し、中には普段私たちが見慣れた7種類の野菜が土に植えられています。ハウス内部の天井には、空と水をイメージしたLEDが張り巡らされ、来場者が野菜に直接触れると光と音が反応し、空間が変化。映像と音で拡張しデザインされたことで、普段は食べる対象でしかない野菜の、植物としての多彩な生存戦略の側面、豊かな色彩をインタラクティブに体感できる試みです。
「でじべじ」発想・企画・体験のつくりかた
寺島圭佑氏によれば、プランニングの段階では、そもそも東京ミッドタウンからテーマである「ふれるデザイン」とは何か検討するにあたり、東京のど真ん中で普段「ふれる」ことがないもは何か?という切り口に着眼したそうです。そこで浮かんだ案が「野菜」。野菜は普段スーパーでは触れますが、その根や花、実がどんなもので、どんな風に育つかは知らない人が多いはず。「野菜×テクノロジー」というテーマに絞り込んでいきました。
会場には、野菜を育てる空間として、また実際に展示した際の雨天時の対応や、空間の作り方としてビニールハウスが最適だということで、実際に農業で利用されているビニースハウスを用いたそうです。
またUXの考え方の1つに、予感、体験、経験の3段階がありますが、寺島圭佑氏によればイメージをカタチにしていく上で、予感(興味が湧く・使いたくなる・欲しくなる)の部分を扱うことが多いようです。
プロジェクト初期はメンバー間で想像しているものがバラバラなので、ラフ案をつくりいち早く目標を共有し、まずこの予感を感じさせることがとても重要とのこと。
寺島圭佑氏はそもそもビニールハウスに入ったことがなかったので、3Dでモデリングし、昼と夜の会場のイメージ、ドローンで空撮したイメージ、人が入った場合のイメージなど、絵でイメージを深めていく中で、具体的にビニールハウスの中にLEDは何個必要か、どこにどう付けるべきか、どんな仕組みや表現ができるか、など企画を詰めていきました。デザイナーはこのように、ビジュアルドリブンでプロジェクトを引っ張ることが重要だと寺島圭佑氏は言います。
会場のイメージを深めた後は、実際にプロトタイピングを作成し、より企画を具体的にしていきます。総合プロデュサーの林氏は、プロトタイプ作成にあたり、実際にスーパーで色々な野菜を買ってセンサーを刺して計測してみたり、センサーの種類を変えてみたり、機材配置の構成を考えたりと、触れる仕組みづくりを考えていきました。
そこから光る仕組み、畑モック作成、更には実際の山梨の農家に出向き、横幅高さが実寸大のビニールハウスのモックまで作成したというから驚きです(笑)。
講義を受けての感想
プロトタイピングを追及し、その上で実際の演出を考えていきます。野菜には根や葉っぱ、花があり、育ち方も違うので、野菜の成長スピードも演出につなげてみたり、花びらの演出には実際の受粉パターン(自家受粉、他家受粉)などを活用するなど、演出の企画の作りこみまでの下調べの量が尋常ではなく、第一線で活躍するクリエイターの底力を垣間見えるエピソードでした。正直そこまで調べるの?と思うレベルで、だからこそ深みのある演出ができるのだと、学ぶことが本当に多かったです。
PORTFOLIO NIGHT
最後に、当日ご登壇いただいたPARTYの方々に、希望者のみポートフォリオや作品のご指導をしていただきました。私もちゃっかりご相談させていただきました。イベントの時間が押していたので、僅かな時間ではありましたが、私が企画・デザインしていたサービスの整合性が取れていない点や、UXの観点から改善できる点を色々とご指摘いただきました。
PARTYで活躍する現場のプロの方から直接フィードバックをいただけるまたとない機会で、ありがたい限りの時間でした。
PARTYはデジタル関連で色々な枠を超えて活動しているクリエイティブ集団です。「VALU」に「でじべじ」と、どちらもはまったく違う方向性の話でしたが、新しい体験を如何に生みだしていくのか、という考え方においてどちらのエピソードもものすごく勉強になり、日々UXデザインを考える際のヒントとなる金言ばかりでした。PARTYの皆さん、デジタルハリウッドにお越しいただき、本当にありがとうございました!