「大阪の夜をどう動かすか」―UI/UXデザイン専攻 グループワーク発表会レポート
デジタルハリウッドの本科UI/UXデザイン専攻・専科UIデザイナー専攻の授業にて、グループワークの発表会が行われました。今回のテーマは「大阪の夜の経済(ナイトタイムエコノミー)をどう回すか」。各チームが大阪の異なるエリアや切り口に着目し、観光客・地域それぞれにとって価値のある夜の過ごし方を、具体的な施設やサービスの形に落とし込んで発表しました。
ナイトタイムエコノミーとは、日没から翌朝にかけての時間帯に生まれる経済活動のこと。国内外の観光客の消費を夜間まで広げることができれば、地域全体の収益機会は大きく増えると言われています。今回のグループワークでは、この夜間経済という切り口から、大阪ならではの体験をどうデザインするかが問われました。
チーム1:大阪城を舞台にした没入型ナイトシアター体験
1つ目のチームが着目したのは、大阪城です。国内外から多くの観光客が訪れる定番スポットである一方、夜の時間帯における体験価値にはまだ伸びしろがあるという仮説から企画がスタートしました。海外の旅行サイトに寄せられた声を調査したところ、「歴史の中に入り込むような体験」への潜在的なニーズが見えてきたといいます。
ターゲットに設定したのは、日本文化を深く味わいたい欧米圏の旅行者、その中でも特別な体験に価値を感じる、いわゆる「モダンラグジュアリー層」。大阪城とその周辺の街を舞台に、夜ならではの没入型シアター体験を提供する企画が提案されました。参加者は夜の城から街へと巡り、役者との会話や食事、周辺地域を含めた一連の体験を通じて、昼間とは違う大阪に出会うという構成です。
宿泊費とは別に、飲食・体験がセットになった参加費を設定し、まずは100名規模の招待制で体験の検証と初期の口コミづくりを行う計画も紹介されました。狙いは、「大阪城を見て終わり」の観光から、「大阪城をきっかけに周辺の街まで楽しんでもらう」観光への転換です。年間160夜(週末開催)、1日100人定員・稼働率70%という前提で試算すると、年間の来場者数はおよそ11,200人。この人数に対する消費額(買い物なども含む)を積み上げることで、1人あたりの単価を高め、大阪に落ちるお金を最大化するというロジックが示されました。
チーム2:日本橋(でんでんタウン)のナイトタイムエコノミー活性化プラン
2つ目のチームが取り上げたのは、秋葉原と並ぶ西日本最大級のサブカルチャーの街、日本橋エリアです。昼間はアニメやフィギュア巡りを楽しむ観光客で賑わう一方、多くの店舗は19時から20時ごろには閉店してしまい、夜になると街全体が静まり返ってしまうという課題が指摘されました。実際、南(ミナミ)エリアの夜間人通りが増加傾向にあるのに対し、日本橋周辺では20時以降の歩行者数が日中の2割以下まで急減するというデータも紹介され、インバウンド観光客や地元客が夜にお金を使う場を失っている「機会損失」が起きているとの分析です。
提案されたのは、日本橋周辺で夕方6時から翌朝6時までシームレスに楽しめる、マルチフロア型の体験交流サービスです。具体的には、目の前で調理する様子を見ながらスタッフとの会話を楽しめる鉄板焼きスタイルの飲食スペースと、サブカルチャーとお酒を組み合わせたバー・ラウンジ空間の2つが例として紹介されました。後者は通常営業時にはグッズ販売スペースとしても活用できる、フレキシブルな設計になっているとのことです。
初期投資はプロモーション費用が中心となり、広告費用のみで見ると投資回収まで約15か月を見込んでいるという試算も示されました。単に飲食を提供するだけでなく、外国人観光客にとって「忘れられない大阪・日本橋の夜」をつくる体験型ナイトスポットを目指すという結びで発表が締めくくられました。
チーム3:「OSACASA」―もう一つの我が家となるナイトリゾート
3つ目のチームが提案したのは、「OSACASA」という名前のリゾート型宿泊施設です。「家」を意味するスペイン語・ポルトガル語の"Casa"にかけたネーミングで、ターゲットはスペイン語・ポルトガル語圏の旅行者。シエスタの文化に代表されるように、旅行中も自分たちのペースでゆったり過ごすスタイルを大切にする層に向けて、「日本を楽しみながら、いつもの自分たちでいられる、もう一つの我が家」というコンセプトが設定されました。
日本人にとって夜は仕事の延長のような感覚になりがちで、電車の終電という制約もあり、宿からわざわざ夜に繰り出すことへの心理的なハードルがあるという指摘からスタートしたこの企画。施設内で夜の体験が完結する「ナイトリゾート」として設計されており、宿泊者以外も利用できる交流中心の「パブリックエリア」と、宿泊者専用でゆったり過ごせる「リゾートエリア」の2つに大きく分かれています。
建物のデザインにもこだわりが見られました。大阪が「水の都」と呼ばれてきたことにちなみ、施設の周囲を水で囲んだ円環型の建築とし、中央にイベントスペースを配置。水上を移動できるルートを設けることで、施設内を巡ること自体が一つの体験になるよう設計されています。サービス提供時間にもメリハリがあり、22時ごろまではバーや社交を中心としたサービスを、それ以降はラウンジなど落ち着いた過ごし方を提供し、深夜3時以降はスタッフをトラブル対応のみに絞ることで、満足度と安全性を保ちながら人件費を抑え、長時間営業を実現する仕組みも紹介されました。
立地としては、水辺の環境を活かせるウォーターフロントエリアが候補として検討されました。将来整備が予定されるIR(統合型リゾート)と競合するのではなく、文化的・体験的な価値を提供する施設として共存し、関西空港に到着した旅行者がまず荷物を預けて大阪観光に出かけ、夜にはこの施設に戻って日本での最初の夜を過ごす、という滞在の起点としての役割も提案されました。ウェブサイトの設計についても、多言語切り替えや宿泊プランの価格帯別提示、海外からの旅行者にもわかりやすいアクセス案内など、実際の利用導線を意識した工夫が紹介されています。
チーム4:「アクトピア」―いつもの自分を脱いでみる、非日常体験施設
4つ目のチームが提示したのは、外国人観光客が日本に感じる魅力に関するデータでした。「治安の良さ」が最も高く評価される一方で、ナイトライフの魅力は相対的に低く評価されているという現状分析から、「日常的ではない体験」をキーワードにした企画がスタートしています。
提案されたのは、道頓堀エリアに構える「アクトピア」という体験施設。「いつもの自分を脱いでみる」というコンセプトのもと、懐かしい大阪の街並みと、フラスコなどが並ぶ「研究所」のような内装を組み合わせ、ネオンの光で道頓堀の夜景を思わせる空間を演出しています。周辺にはすでに夜間営業のアクティビティ施設が少ないことや、近隣のなんばグランド花月が夜には営業を終えていることに着目し、劇場帰りにもっと笑いを楽しみたい層の受け皿となることも狙いの一つです。
来場者は入場時に「大阪のおばちゃん」「チンピラ」「漫才師」といった、大阪にまつわるさまざまなペルソナをリストバンドとともに与えられ、その役になりきって施設内を楽しみます。訪れるたびに異なるペルソナが割り当てられるため、繰り返し訪問しても新しい体験ができる仕組みです。
アクティビティの一例として紹介されたのが、関西弁特有の曖昧な指示(たとえば「直す」が「片づける」なのか「修理する」なのかを文脈から読み取る)を正しく解釈して行動する体験や、ペルソナに扮してコスチュームで写真を撮る「なりきり写真館」、強盗やバスジャックに扮したスタッフとのやり取りを通じて警察が来るまでの時間を稼ぐという、コントのような掛け合いを楽しむアクティビティです。演者には、吉本のNSCに通う学生や実際の芸人を起用することも検討されているとのことでした。
体験の記録や進行はスマートフォンアプリと連動しており、ペルソナとの掛け合いの中でうまく「ツッコミ」ができるとポイントが貯まり、体験中の写真や動画をアプリ内で獲得できる仕組みも紹介されました。言語の壁を解消するための多言語対応「Language Support Pass」も用意されているとのことです。
大阪城、日本橋、ウォーターフロント、道頓堀――同じ「大阪の夜」というテーマでも、着目するエリアやターゲットが違えば、生まれるアイデアはこれほど多様になるのだと実感させられる発表会でした。
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■デジタルハリウッドSTUDIO編集部
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