2026年6月28日(日)、デジタルハリウッドSTUDIO主催のクロストークイベント「AIが変える未来のクリエイティブ ~現場の最先端を丸ごとインプット!~」を開催しました。
当日は台風の影響により、急遽オンライン限定での開催となりましたが、全国のSTUDIOから多くの方にご参加いただきました。ご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。
今回のテーマは、生成AIとクリエイティブのこれから。ゲストには、デジタルコンテンツ制作の最前線で活躍するテクニカルディレクターの西村保彦氏と、広告・ブランディング領域で表現を手がけるアートディレクターの須藤絵理香氏をお迎えしました。
「AIによって、クリエイティブの現場はどう変わっているのか」「これからクリエイターを目指す人は、何を学ぶべきなのか」。現場で実際にAIを使うお二人の視点から、リアルなお話を伺いました。
登壇者プロフィール
西村保彦 氏
Human Magic株式会社 代表取締役/テクニカルディレクター・エンジニア・プロデューサー。Web制作会社、広告制作会社を経て2026年に独立。Web・アプリ・映像・インスタレーション・AI活用コンテンツなど、幅広いデジタルコンテンツの制作を手がける。Cannes LionsやOne Show、文化庁メディア芸術祭をはじめ、国内外のアワード受賞歴多数。デジタルハリウッドSTUDIOのAI総合クリエイティブ講座 監修・講師も担当。
須藤絵理香 氏
株式会社電通 アートディレクター。デジタルハリウッド大学卒業後、株式会社電通にアート職として入社。アートディレクター・プランナーとして、広告・ブランディング領域を中心に、テクノロジーやデジタル表現を横断したクリエイティブに取り組む。デジタルハリウッド大学院にてデジタルコンテンツマネジメント修士課程を修了。国内外のアワード受賞歴多数。
当日はオンライン配信に切り替えて開催。画面越しにも、現場の熱量が伝わる時間となりました。
AIによって、クリエイティブはどう変わったのか
自分の外側にある知識へ、手が届きやすくなった
はじめに話題にあがったのは、AIによって「できること」の範囲が大きく広がったということです。
西村氏は、生成AIについて「世の中の知識の大部分に、これまでとは違う形でアクセスできるようになった」と話します。
これまでは、自分の経験やスキル、人脈、予算の範囲内で考え、調べ、作ることが一般的でした。しかしAIを活用することで、専門外の領域にも踏み込みやすくなり、まるでさまざまな分野の専門家をチームに迎えたような感覚で、アイデアを広げられるようになったといいます。
一方で、西村氏が強調していたのは「AIが持っていないもの」の価値です。AIが学習しているのは、基本的にはデジタル化された情報。だからこそ、自分自身の経験や、その場でしか得られない感覚、まだ言葉になっていない違和感は、人間側に残る大切な強みだと語りました。
須藤氏も「自分が知っていることの延長線上だけでなく、まったく知らない領域にもアクセスしやすくなった」と話し、AIが発想の入口を広げてくれる存在になっていることを実感として共有しました。
試す量が増えると、表現の精度も変わる
AI活用による大きな変化として、お二人が共通して話していたのが試行錯誤のしやすさです。
これまで、アイデアを形にするには時間も費用もかかりました。チームで制作している場合は、「ここまでお願いしていいのかな」と遠慮してしまう場面もあります。けれどAIであれば、思いついたことをすぐに試し、何度もやり直すことができます。
西村氏は、あるWebキャンペーンのプロジェクトで、最終的に使用する100枚の画像を選ぶために、AIで約3万枚の画像を生成したエピソードを紹介しました。
3万枚と聞くと驚く数字ですが、たくさん試せるからこそ「これは違う」「こっちの方が近い」という判断ができ、最終的なアウトプットの精度が上がっていく。そのプロセス自体が、AI時代の制作の特徴なのだと感じられるお話でした。
すぐ作れるからこそ、見極める力が必要になる
ただし、「早く形にできること」には注意も必要です。
西村氏は、AIで作ったプロトタイプを完成品のように捉えてしまう危うさについても触れました。見た目が整っていると、それだけで良いものに見えてしまうことがあります。しかし、本当に大切なのは、その企画の核となる部分がきちんと表現されているかどうかです。
西村氏は、企画書をあえて手書きで描くことがあると話しました。あまりにきれいに作り込みすぎると、見る側が「もう完成しているもの」と受け取ってしまい、その先の想像が広がりにくくなるからです。
AIによって、人間の限界を超えるような量と速度で制作できるようになりました。だからこそ、どこへ向かうのかを決めること、何を良いと判断するのかを持つこと。そのディレクション力が、これまで以上に問われているのだと感じます。
AI活用で変わる、現場のワークフロー
まっすぐ進める制作から、何度も回しながら深める制作へ
続いて、AIによって現場のワークフローがどう変化しているのかについて話が広がりました。
須藤氏は、これまでの制作プロセスを「調べる、考える、作る、見直す、届ける」という直線的な流れとして紹介しました。もちろん今もこの流れは大切ですが、AIの登場によって、その進み方に変化が生まれています。
今は、問いを立て、複数の可能性を試し、比較し、選び、また問い直す。制作のサイクルを何度も回しながら、少しずつ精度を上げていく感覚に近いといいます。
西村氏はその様子を、小さな輪がだんだん大きくなりながら方向を持っていくイメージとして表現しました。最初から正解を一つに決めるのではなく、試しながら見えてくるものを拾い、最終的な形へ近づけていく。AIは、その反復のスピードを大きく高めてくれる存在です。
便利になった分、仕事の密度も上がっている
AIを使うと仕事が楽になる、というイメージを持つ方もいるかもしれません。ところが、現場では必ずしもそう単純ではないようです。
須藤氏は「8時間でできることが増えたからこそ、その8時間がより濃くなっている」と話します。AIによって作業スピードは上がる一方で、「もっと試せる」「もっと良くできる」という期待も高まっていきます。
西村氏も、複数のAIに同時に作業を進めさせていると、最終的に自分の判断がボトルネックになることがあると語りました。AIが速く動くからこそ、人間側にはより多くの判断が求められるようになります。
だからこそ、お二人が大切だと話していたのがインプットの時間を意識的に確保することです。アウトプットの量が増えるほど、何を良いと感じるのか、なぜ良いと判断するのか、その軸を育てる時間が必要になります。
これから求められるのは「選び抜く力」
AIが多くの案を出してくれるようになった今、クリエイターの役割は「自分の手で一つずつ作ること」だけではなくなってきています。
須藤氏は、これからの制作を「より自分の判断軸をしっかり持つ必要がある時代」と表現しました。
誰でも一定以上のアウトプットを出しやすくなったからこそ、何を選ぶのか、どこを磨くのか、どう一貫した世界観にまとめるのかが重要になります。企業や個人がAIを使って発信する場面が増えるほど、トーンやメッセージを整えるディレクションの価値は、むしろ高まっているのかもしれません。
AI時代に、これから何を学ぶべきか
西村氏が語った、AI活用に必要な3つの姿勢
① 良いもの・良くないものをたくさん見る
AIに良い指示を出すためにも、出てきたものを判断するためにも、まずは自分の中に「比較できる材料」を持つことが欠かせません。良いものをたくさん見ること。反対に、良くないものも知っておくこと。その積み重ねが、クリエイティブの判断軸になります。
② 言語化する
西村氏は、AIへの指示がうまくいかない時には「ツールの問題」と考える前に、自分の言語化を見直すことが大切だと話しました。どこが良いのか、何が違うのか、どう変えたいのか。アウトプットの良し悪しを言葉で説明できる力は、AIを使う上でも、クリエイターとして仕事をする上でも重要です。
③ 自分なりの偏りを持つ
生成AIは、多くの人にとって使いやすい、平均点の高いアウトプットを返してくれます。だからこそ、そこから先に何を加えるのかが大切になります。西村氏は「偏りこそが個性」だと話しました。自分は何に惹かれるのか、何を面白いと感じるのか。その視点を育てることが、AI時代のクリエイターらしさにつながります。
須藤氏が語った、感性を育てる3つの行動
① 良質な企画・作品に触れる
判断軸を育てるためには、良い企画や作品をたくさん知ることが大切です。SNSで流れてくるものをなんとなく見るだけでなく、評価されている作品や、自分が気になる表現を意識的に見に行くこと。これはAIが広がった今でも変わらない、クリエイティブの基本です。
② 現実・現場・本物に触れる
須藤氏が特に強調していたのが、画面の中だけで完結しないことです。AIによって、リアルに見える画像や映像が簡単に作れるようになったからこそ、実際の場所に行き、本物に触れ、空気や質感を感じることの意味は大きくなっています。
同じ映像でも、スマートフォンで見るのと映画館で見るのでは、受け取る情報量がまったく違います。そうした体験の差を知っていることも、表現を考える上で大切な引き出しになります。
③ とりあえずやってみる
AIによって、思いついたことをすぐに試せる環境が整いました。だからこそ、最初からうまく作ろうとしすぎず、まず形にしてみることが大切です。作って、見せて、反応を受け取り、また試す。その繰り返しが、自分の判断軸や表現の幅を育てていきます。
Q&Aハイライト
イベント後半では、参加者の皆さまから多くの質問をいただきました。その中から、印象的だった内容を一部ご紹介します。
Q. AIを仕事にどう活かすか、どのように学びましたか?
西村氏は「基本的には試行錯誤の繰り返し」と回答。うまくいかなかったプロンプトを別の言い方で試す、出てきた結果を見てまた調整する。その積み重ねが、AI活用の経験になっていくと話しました。また、自分が作りたいものをAIに伝え、そのためのプロンプト自体をAIに考えてもらう方法も紹介されました。須藤氏は、文章で細かく入力するだけでなく、音声でざっくり話しかけることもあると話し、用途に合わせてAIとのやり取りを使い分けている様子が印象的でした。
Q. 判断軸を鍛えるには、どんなインプットが必要ですか?
西村氏は、インプットだけでなくアウトプットも大切だと話しました。自分の作品をSNSなどに出してみると、いいねやコメント、反応の有無も含めてフィードバックになります。良し悪しにかかわらず、外に出して反応を受け取ることで、自分の判断軸は磨かれていきます。また、AIに相談する時にも「メリット・デメリットを客観的に議論してください」といった指示を加え、あえて批判的な視点を取り入れているというお話もありました。
Q. AI活用における著作権やリスク管理は、どう考えればよいですか?
西村氏は、AIに「法律に違反していませんか?」と聞くよりも、「どのようなリスクが考えられるか」を洗い出してもらう方が実践的だと話しました。著作権だけでなく、景品表示法やブランドイメージへの影響など、複数の観点からリスクを確認した上で、最終的には人間が判断する必要があります。須藤氏も、AIが登場する以前から、似たものを出さないことやリスクに気を配ることは制作者として大切にしてきたと話しました。
まとめ:AI時代にこそ、人間の視点が問われる
今回のクロストークを通して印象的だったのは、AIはクリエイターの仕事を奪うものではなく、むしろ制作の可能性を広げるパートナーとして語られていたことです。
AIは、調べる、試す、形にするスピードを大きく上げてくれます。けれど、その中から何を選ぶのか、どこに違和感を持つのか、何を面白いと感じるのかは、人間の側に残ります。
良いものを見て、言葉にして、本物に触れて、自分なりの偏りを育てる。AIが当たり前になっていくこれからの時代でも、クリエイターにとって大切なことは、決して変わらないのかもしれません。
AI総合クリエイティブ講座について
本イベントに登壇いただいた西村保彦氏が監修・講師を担当するデジタルハリウッドSTUDIOのAI総合クリエイティブ講座では、AIを単なるツールとして使うだけでなく、企画・デザイン・画像生成・動画制作・広告クリエイティブなど、制作のさまざまな場面で活用する力を学びます。
AIに任せるのではなく、AIと対話しながら、自分の意図を言葉にし、表現を磨いていく。これからのクリエイティブに必要な実践力を身につけたい方に向けた講座です。
デジタルハリウッドSTUDIOについて
デジタルハリウッドSTUDIOは、1994年の設立以来、Webデザイン・グラフィックデザイン・UI/UXデザイン・動画編集など、クリエイティブ分野の学びを提供してきた専門スクールです。全国各地のSTUDIOに加え、通学が難しい方向けにオンラインスクールもご用意しています。
「AIの時代に、自分らしいクリエイティブを学びたい」と感じた方は、ぜひ無料のスクール説明会にご参加ください。
本記事はイベント録画・文字起こしをもとに、登壇者の発言内容を要旨化して掲載しています。